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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)8457号 判決 1969年7月11日

原告

小川英夫

原告

有限会社東京大栄重量

代理人

浅川秀三

外二名

被告

双立商事株式会社

代理人

酒巻弥三郎

外二名

主文

被告は原告小川英夫に対し五八万九一一七円および右金員のうち、五三万九一一七円に対する昭和四二年八月一九日以降支払い済みに至るまで年五分の割合により金員の支払いをせよ。

原告小川英夫のその余の請求および原告有限会社東京大栄重量の被告に対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告小川英夫と被告との間に生じたものは、被告の負担とし、原告有限会社東京大栄重量と被告との間に生じたものは、同原告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、かりに執行することができる。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は原告小川英夫に対し七四万二四一七円、原告有限会社東京大栄重量に対し三六万四九五〇円および右七四万二四一七円のうち六九万二四一七円、右三六万四九五〇円のうち三三万四九五〇円に対する昭和四二年八月一九日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

第二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第三  当事者双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  (事故の発生)

原告小川英夫(以下小川という。)は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際、原告有限会社東京大栄重量(以下、原告会社という。)はこの所有に属する原告車を損壊された。

(1) 発生時 昭和四二年三月一日午後三時四五分頃

(2) 発生地 東京都世田谷区池尻三丁目二一番二九号先交差点

(3) 被告車 普通乗用自動車(品川五る〇九二三号)

運転者 斉藤稔

(4) 原告車 普通貨物自動車(練馬四ま二四九三号)

運転者 原告小川

被害者 原告小川

(5) 態様 別紙図面記載のとおり被告車が右折するにつき、対向して進行してきた原告車と衝突したものである。

(6) 結果 小川は、右大腿骨頭骨折、足関節捻挫の傷害を受けた。

(二)  (責任原因)

被告は、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(1) 被告は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、原告小川の人損につき自賠法三条による責任。

(2) 被告は、斉藤稔(以下斉藤という。)を使用し、同人が同被告の業務を執行中、対向車輛との安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

(三)  (損害)

(1) 原告小川の損害

(イ) 入院治療費 二四万八六五〇円

(ロ) 入院雑費 一万一八〇〇円

原告は、本件事故により昭和四二年三月二日より同年六月七日まで古畑病院に入院したが、その間、入院雑費として、一万一八〇〇円の支出を余儀なくされた。

(ハ) 附添看護代 一七万五六〇〇円

(ニ) 貸布団代 七九二〇円

(ホ) 通院交通費 一二〇〇円

(ヘ) 休業損害 一九万七二四七円

原告小川は、前記受傷による治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ一九万七二四七円の損害を蒙つた。

(事故時の職業)原告会社の自動車運転者

(休業期間)昭和四二年三月二日より同年六月二〇日までの一一一日間

(事故時の日収)一七七七円

(ト) 慰藉料五〇万円

(2) 原告会社の損害

(イ) 原告車修理代 一七万七六六〇円

(ロ) 傭車代 七万二〇〇〇円

原告会社は、本件事故により破損した原告車の修理のため昭和四二年三月二日より同月一五日まで原告車を使用することができなかつたので、その間、株式会社東日より運転手付で普通貨物自動車一台を借り受け、その賃料として七万二〇〇〇円を支払つた。

(ハ) 柳田圭二に対する支払金五万五二九〇円

原告会社は、本件事故により破損した右柳田所有のオートバイおよび自転車各一台の修理代金として五万五二九〇円を右柳田に支払つた。

(四)  損害の填補

原告小川は自賠責保険金として既に五〇万円の支払いを受け、これを同原告の損害のうち、(イ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)のうち六万六六三〇円にそれぞれ充当した。

(五)  弁護士費用

以上により、原告らは、被告に対し右損害の賠償を請求しうるものであるところ、被告が任意の弁済に応じないので、弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、手数料として原告小川は五万円、原告会社は三万円を各払つたほか、成功報酬として原告小川は五万円、原告会社は三万円を勝訴判決確定後に支払うことを約した。

(六)  (結論)

よつて、被告に対し、原告小川は七四万二四一七円、原告会社は三六万四九五〇円および右各金員のうち、未払の弁護士費用を除く六九万二四一七円および三三万四九五〇円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月一九日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告の答弁ならびに抗弁

(一)  第一項中(一)ないし(五)は認める(但し、原告会社が原告車を所有していることを除く。)。(六)は知らない。

被告は、はじめ、原告会社が原告車を所有していることを認めたが、それは事実に反する陳述で錯誤にもとづいてしたものであるから、その自白を撤回して否認する。原告車の所有車はトヨタパブリカ株式会社である。

第二項は、斉藤の過失の点を除き認める。

第三ないし第五項のうち、原告小川が自賠責保険金として五〇万円を受領したことは認めるが、その余は争う。

(二)  (免責)

斉藤は、被告車を運転して別紙図面記載のとおり、信号機のある交差点で渋谷方面より淡島方面に右折するためにあたり、青信号の表示で進入し、中央線附近に停車して、対向する直進車輛の通過をまつていたところ、渋谷方面の信号が黄信号となつたとき、原告小川の運転する原告車が約三〇メートル先を三軒茶屋方面から渋谷方面に向けて進行してくるのを認めたが、右交差点に進入することは許されないものであるから、交差点の手前で停止するものと判断して右折進行した。ところが、原告車は右信号の表示を無視し、しかも、すでに右折している被告車の進行を妨げ、時速約六〇キロメートルの速度で右交差点に進入した結果、原告車の右前部を被告車の左前部に衝突させたものである。

右のとおりであつて、斉藤には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに原告小川の過失によるものである。また、被告には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は自賠法三条但書により免責される。

(三)  (過失相殺)

かりに然らずとするも、事故発生については原告小川の過失も寄与しているものであるから、原告らの賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

三  抗弁に対する原告らの答弁

自白の撤回には異議がある。

免責過失相殺、の抗弁は争う。

第三、当事者双方の提出、援用した証拠<略>

理由

一(事故の発生)

本件事故の発生したことは、原告小川の傷害の部位、原告車の所有者の点を除き、当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、原告小川は、本件事故により、右大腿骨頭骨折、骨関節打撲捻挫の傷害を受けたことが認められる。

なお、被告ははじめ、原告会社が原告車を所有していることを認めたが、それは、事実に反し、錯誤にもとづくものであるから、右自白を撤回すると主張する。成立に争いのない乙第一号証によれば、本件事故当時、原告車の所有名義はトヨタパブリカ武蔵野株式会社であつたことが認められるが<証拠>によれば、原告会社は、昭和四一年九月二三日トヨタパブリカ武蔵野株式会社から原告車を代金四二万円余で月賦で買い受け、昭和四三年三月に右代金を完済したことが認められる。従つて、原告車が原告会社の所有に属しないものということはできないから、被告の右自白の撤回は理由がない。

二(責任原因)

(一)  本件事故は、被告が斉藤を使用し、同人が同被告の業務を執行中、発生したものであることは、当事者間に争いがない。そこで斉藤の過失について判断する。

まず、本件事故現場の道路状況についてみると、<証拠>によれば、本件事故現場は、別紙図面記載のとおり、三宿方面から渋谷方面に通ずる道路と淡島方面に北西に通ずる道路および上目黒方面に南東に通ずる道路とが交差する信号機の設置されている交差点であること、右東西道路は、幅員三〇メートルで、両側には各三メートルの歩道があり、道路中央には東急玉川線の軌道が敷設され、三車線が設けられているアスファルトの舗装道路で、交通量はかなり多いこと、北西道路は、幅員六メートル、両側には各二、五メートルの歩道があり、南東道路は、幅員四メートルで歩車道の区別がなくいずれもアスファルト舗装の道路であること、右交差点の中央附近から東西道路の見とおしは良好であること、右交差点の信号機は、東西道路を三宿方面に向かつて三四メートル先にある三宿交差点にある信号機と連動していることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

次に、本件事故発生当時の原、被告車の状況について判断すると、<証拠>を総合すると、斉藤は被告車を運転して、別紙図面のとおり渋谷方面から青信号の表示に従つて、本件交差点に至り、淡島方面に右折するため交差点中央附近に進み、三軒茶屋方面から渋谷方面に向けて右交差点を進行中の一団の車輛の通過を待ち、右車輛が通過したあと、その後方三〇メートル先に本件交差点に向けて進行中の原告車を発見したが、原告車が交差点手前で停止して、被告車に進路を譲つてくれるものと判断し、時速約五キロメートルの速度で右折、進行したところ、予期に反して、原告車がそのまま交差点に進入してきたのでさける間もなく、被告車の左前部と原告車の右前部とが衝突したこと、一方原告小川は、原告車を運転して、三軒茶屋方面から渋谷方面に向けて時速約五〇キロメートルの速度で進行していたところ、右折のため交差点中央附近で待機中の被告車を約五〇メートル先に発見したが、被告車がそのまま停止して原告車の通過を待つてくれるものと判断し、そのままの速度で進行したところ、被告車が右折進行してきたためさける間もなく衝突したことを認めることができる。しかし、原告車の進行方向の信号機が原告車の交差点進入の際青信号を示していたものか、それとも黄信号を表示していたものかどうか、さらに、原告車が右交差点に至るどの地点ですでに黄信号を表示していたものかは、本件全証拠によるも、これを確定することは困難である。

以上の如く、斉藤の注意義務判定上の重要な事実である本件交差点における信号機の表示が不明である本件にあつては、事故発生時、斉藤にいかなる注意義務が要求されていたかを判断するに足りる具体的状況を確定することが困難である。そうだとすれば、斉藤の過失について立証責任を負う当事者の不利益に判断するほかはない。従つて、原告会社の損害につき、被告の民法七一五条一項の責任を認めることはできず原告会社の請求は失当というほかない。

(二)  被告が被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであることは、当事者間に争いがない。

そこで被告の主張する免責の抗弁について判断すると、被告としては、斉藤に過失がなかつたことを立証すべきところ、前示のとおり、この点が明かでない以上、被告の不利益に判断するほかないから、その他の免責要件について判断するまでもなく、理由がない。従つて、被告は、自賠法三条にもとづき、原告小川の損害を賠償する責任がある。

次に過失相殺の抗弁について判断すると、原告小川の過失についても、斉藤のそれと同様、前示のとおり、その注意義務を判断するに足りる具体的状況を確定することが困難であるから、原告らの賠償額の算定につき、原告小川の過失も斟酌することができないというほかはない。

三(原告小川の損害)

(一)  入院治療費

<証拠>によれば、原告小川は、本件受傷により昭和四二年三月二日より同年六月まで古畑病院に入院し、入院治療費として、二四万八六五〇円を支出したことが認められ、同額の損害を受けたものということができる。

(二)  入院雑費

<証拠>によれば、原告は、右入院期間中、洗面器、花瓶、電熱器など雑費として一万一八〇〇円を支出したことが認められるが、右入院雑費中、洗面器、花瓶、電熱器合計二一〇〇円を除き、その余の雑費については、本件事故と相当因果関係にあるものと認められるから、九七〇〇円の限度で被告に負担させるのを相当とする。

(三)  附添看護婦代、貸布団代

<証拠>によれば、原告小川は、本件受傷により入院し、附添看護婦代として一七万五六〇〇円、貸布団代として七九二〇円をそれぞれ支出したことが認められ、同額の損害を受けたものということができる。

(四)  通院交通費

原告小川が通院交通費として一二〇〇円を支出したことは本件全証拠によるもこれを認めることができない。

(五)  休業損害

<証拠>によれば、原告小川は、本件事故当時、原告会社に自動車運転者として勤務し、日収として平均一七七七円を得ていたところ、本件受傷により昭和四二年三月二日より同年六月二〇日まで一一一日間休業を余儀なくされ、その間右収入を得られなかつたことを認められるから、原告小川は、一九万七二四七円の得べかりし利益を失つたものということができる。

(六)  慰藉料

原告小川は、本件事故により前記傷害を受け、前記のとおり入院し、退院後も二カ月間は勤務を休まざるを得なかつたことは、先に認定したとおりである。従つて、原告小川が本件事故により、精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところ、慰藉料としては四〇万円を相当とする。

四(損害の填補)

原告小川が自賠責保険から五〇万円を受領したことは、当事者間に争いがないから、原告小川の右損害から右金額を控除すべきことになる。

五(弁護士費用)

<証拠>によれば、原告小川は、被告が右損害の賠償の任意の弁済に応じないので、原告訴訟代理人にその取立を委任し、手数料として五万円、成功報酬として五万円を支払うことを約したことが認められる。従つて、本訴認容金額のほぼ一割に当る五万円の限度で被告に負担させるのを相当とする。

六(結論)

よつて、原告小川は、被告に対し五八万九一一七円および右金員のうち、弁護士費用を除く五三万九一一七円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月一九日以後支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求および原告会社の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九二条、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(福永政彦)

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